ハズレ多め

僕が見ているあなたという人間は、あなたの中にたくさんある面のうちのひとつでしかなく、あなたが見ている僕も、たくさんある僕の面の一部分でしかない。

酔っぱらって大騒ぎする僕も、一言も発さず机のカドをジッと眺めている僕も、どちらも紛れもない僕なのだけど、いったいあなたの目には、僕のどんな面が映っているのだろうか。

｢魚拓さんや塾長さんは、安定して面白い文章を書くんです。でも田中さんは、たまにめちゃくちゃ面白いときもあるけど、うわー今回ハズレだーって思うこともけっこうあるんですよね｣

たまに面白い文章を書くのも、けっこうハズレの文章を書くのも、たしかに僕だ。そもそも僕は、過去に大振りしたラッキーパンチがたまたま良いところに当り、あいつパンチあるぞと相手が勝手にその残像を意識しているところで、ずる賢くジャブでポイントを稼いでいくタイプのライターだ。

毎回、KOなんて狙う必要はない。相手が｢あれ？　もしかしてこいつパンチないんじゃね｣と油断した頃合いを見計らって、ガラ空きのテンプルに大振りのパンチを1発入れさえすれば、またその残像で、向こう2年はのらりくらりとポイントを稼げるわけだ。

※とにかく一発。高砂のロッキー打ちたいなあ

そんな僕のファイトスタイルをしっかり見透かしていたのは、僕が誌面デビューした当時からパチスロ必勝ガイドを読んでいるというヘビーな読者さんだった。

うわー、本当にいるーーー！　そう言って感激している母の表情を醒めた視線で見つめながら、隣にいる息子がつぶやく。なに、お母さん。そんなにこの人のファンなの？

そりゃそうだ。知らない人から見たら、いや、知っている人から見たって、僕はただの中年のおっさんだ。

何年も前からずっとここにきたかったんです。夢が叶いました！　興奮する母親を横目に、やっぱり息子はいたって冷静だ。

ずっとセブのNPOに行きたい、NPOに行きたいって言うからおかしいなと思っていたんですけど、この間、youtubeでここのことについて観たらパチスロの人だって言ってて。ああ、なるほどなって。

あんたなに言ってんの。田中さんはすごい人なんだから。ただ、文章はハズレが多いんだよなー。

なんでこの方は、ハズレ文章を書く僕のファンだと言うのだろう。ハズレ文章を書く僕のNPOを見るために、わざわざセブまできてくれたのだろう。

脳内でリフレインする。文章はハズレが多いもんな。文章はハズレが多いもんな。文章はハズレが多いもんな……。

土曜日に日本へ戻ります。たしかそう言っていたと思うが、本日のセブ発日本行き飛行機は、たしか全便がキャンセル。日本に戻れずセブにステイするあの親子は、ホテルでこの文章を読むのだろうか。そしてまた、ハズレだなーとつぶやくのだろうか。

※わざわざセブまでありがとうございました。次は日本公演でお会いしましょう